目次
行動変容とは?
行動変容とは、望ましい行動を増やし、望ましくない行動を減らすために、人の行動とその背景(環境・考え方・感情)を理解し、少しずつ変えていくプロセスのことです。
これは単なる「しつけ」や「指示」ではなく、科学的に裏付けられた方法を使って、本人のやる気や自信を引き出しながら進めるのが特徴です。
筆者はABA(Applied Behavior Analysis)ペアレントトレーナーですので安心してください。
人の行動の流れ
行動は突然起きるわけではありません。以下の流れで生まれます。
流れ | 説明 | 例 |
---|---|---|
感覚 | 五感で情報を受け取る | おもちゃの音が聞こえる |
認知 | その情報を頭で解釈する | 「あれで遊びたい!」と思う |
判断・意思決定 | 行動するかどうか決める | 今遊びに行くと決める |
行動 | 実際に行動する | おもちゃの場所へ行く |
検証 | 行動の結果を確認する | 遊べた/遊べなかった |
学習 | 次の行動に活かす | 遊べた方法を覚える |
人が行動する4つの理由
理由 | 説明 | 子どもの例 |
---|---|---|
注目 | 誰かの関心を得たい | 泣いたらお母さんが見てくれる |
逃避 | 嫌なことから逃れたい | 宿題をしないで怒られる前に部屋に隠れる |
欲求 | 欲しいものや活動を手に入れたい | お菓子が欲しくて「ちょうだい」と言う |
快楽 | 心地よい感覚を味わいたい | ジャンプして楽しい感覚を繰り返す |
応用行動分析(ABA)の4つの特徴
- 環境と個人の相互作用
行動は「その人の性格」だけでなく、周りの環境との関係で生まれる。 - スキルの獲得と拡大
新しい行動や能力を増やしていく。 - 環境の整備
家庭や学校など、本人が行動しやすい環境をつくる。 - 支援システムの構築
支援者が学び続けられる教育や仕組みを整える。
ABC分析(先行刺激・行動・結果)
行動を変えるための基本的な見方です。
項目 | 説明 | 支援の役割 |
---|---|---|
先行刺激(A) | 行動のきっかけになる状況 | 支援で整える |
行動(B) | 実際の行動(動詞で表す) | 本人が変える課題 |
後続刺激(C) | 行動の結果 | 支援で整える |

4つの基本随伴性
行動と結果の関係を理解するための表です。
正(賞・好) | 負(罰・嫌) | |
---|---|---|
出現 | 増える(正の強化) | 減る(正の罰) |
消失 | 減る(負の罰) | 増える(負の強化) |
予防的対応
「起きてから対応する」よりも、望ましい行動が起きやすい環境を事前に作ることが大切です。
- 支援者のトレーニング(親・先生など)
- 情報共有(お母さんネットワークやLINEグループ)
- 支援チームの設立(家族・先生・仲間)
- ルールの共有(何が望ましい行動かを全員で統一)
- 報酬の設定(ほめる、お菓子、ハグなど)
ポジティブ行動支援(PBS)
- 罰や制限だけでなく、生活全体の質を向上させる支援。
- 本人らしさを尊重し、強制的・嫌悪的な関わりを避ける。
- 「望ましくない行動を減らす」よりも、「望ましい行動を増やす」ことに重点を置く。
効果を高めるために知っておくこと
学習性無気力
失敗体験の繰り返しは意欲や学習能力を下げます。
➡ 小さな成功体験を積ませることが大切。
自己効力感(Self-efficacy)
「自分はできる」と信じられる力。自己肯定感(自己肯定は自分を受け入れる力)とは別物。
自己効力感を高める4つの方法:
- 達成体験(自分の成功体験)
- 代理的体験(他人の成功を見て自分にもできると思う)
- 社会的体験(励ましや助言)
- 情緒的高揚(行動に伴うワクワクや充実感)
外的報酬から内的報酬へ
- 外的報酬(お菓子・物) → 長続きしにくい
- 内的報酬(褒められる・嬉しい気持ち) → 長く続く
➡ 最終的には「やりたい!」「楽しい!」という内発的動機付けを目指す。
スモールステップの重要性
- 目標を細かく分けて段階的に進める
- 大きな失敗を避け、小さな成功を積み重ねる

まとめ
- 行動変容は一晩で変わるものではなく、段階的に進む
- 環境を整え、望ましい行動が自然に増える仕組みを作る
- 成功体験と自己効力感を大切にする
- ポジティブな関わりが行動変化を促す
一番大切なことですが、親御さんもイライラを見せず対応することです。
泣きわめいても、言うことは聞かない。ダメなものはダメ。でも~というように代替え案を提示。繰り返しが大切です。一気にしようとせず、親サイドもスモールステップで行いましょう。
ここから下はノートに書いて使ってもらえるように項目だけ書いていますので、一つずつお子さんと一緒に試していっていただけると嬉しです。
行動変容ワークシート(家庭用)
1. 行動観察シート(ABC分析用)
日付 | 先行刺激(A:きっかけ) | 行動(B:〇〇する) | 結果(C:どうなった) | 親の対応 | 気づき・改善案 |
---|---|---|---|---|---|
2. 行動の目的チェックリスト(4つの理由)
「この行動は、どの理由が当てはまりそう?」に○をつけます。
理由 | 説明 | チェック |
---|---|---|
注目 | 誰かの関心を得たい | ○ |
逃避 | 嫌なことから逃れたい | |
欲求 | 欲しいものを得たい | |
快楽 | 気持ちよさ・楽しさを得たい |
3. スモールステップ目標設定表
大きな目標 | 小さな目標1 | 小さな目標2 | 小さな目標3 |
---|---|---|---|
宿題を毎日する | 5分だけ机に座る | 1ページだけやる | 全部終わらせる |
4. 報酬プラン(外的→内的)
行動 | 外的報酬(はじめのうち) | 内的報酬(慣れてきたら) |
---|---|---|
宿題をする | シール1枚・おやつ | 「よく頑張ったね!」と褒める |
片付けをする | 好きな遊び時間 | 「スッキリして気持ちいいね」 |
5. 成功体験メモ(自己効力感アップ用)
日付 | できたこと | その時の気持ち |
---|---|---|
6. 予防的対応プラン
- 家の環境(例:宿題用の静かな場所をつくる)
- 支援チーム(例:祖父母や先生にもルールを共有)
- 情報共有方法(例:LINEグループ)
- ルール表(例:望ましい行動と望ましくない行動を貼り出す)
使い方のポイント
- 毎日全部を埋める必要はありません。1日1〜2項目でOK。
- 気づきを書くことで「なぜその行動が起きたのか」が見えてきます。
- 成功体験は小さくても必ず記録して、後で振り返って褒めましょう。