──数字で整える、美しいデザインの設計思想
Webデザインの世界では、「8の倍数ルール」という言葉を耳にしたことがある方も多いでしょう。
これは単なる“数の決めごと”ではなく、デザイン全体の秩序と再現性を生み出す考え方です。
たとえば、ボタンの高さや余白、画像の間隔など――
ひとつひとつの数値を「8px」「16px」「24px」「32px」などの8の倍数で揃えることで、
見た目の一貫性が保たれ、デザイン全体が不思議と“整って見える”ようになります。
そして何より、「迷わなくなる」。
それが、このルールが現場で重宝される最大の理由です。
目次
どうして「8」なの?──理屈の裏にある“心地よさ”
この“8”という数字には、単なる偶然ではない理屈が潜んでいます。
8は2の3乗(2×2×2)という構造を持ち、「半分」「4分の1」「8分の1」といった分割を行っても常に整数で表現できる“分解しやすい数”なんです。
この性質が、デザイン上でとても役立ちます。
1. 多くの画面サイズが8で割り切れる
1920×1080、1280×720など、ディスプレイ解像度は8で割り切れる数が多いですよね。
つまり8単位でレイアウトを組めば、端数のないきれいなグリッドが作れるのです。
2. 認知的にも“落ち着く”数字
人間の目は、一定のリズムや間隔に心地よさを感じます。
8px単位の余白は、その“リズム感”を自然に生み出してくれる。
「整っている」「気持ちいい」という感覚には、数値の裏付けがあるんです。
3. チームでの共通言語になる
「ここは16px広げましょう」と言えば、誰でもすぐ理解できる。
8の倍数ルールは、デザインとエンジニアの共通言語になります。
感覚的なやりとりを、ロジカルな会話に変えてくれるわけです。
どんなところに使えるの?
8の倍数ルールは、単なる余白の話にとどまりません。
サイト全体の構造設計から、細部のUIデザインまで幅広く応用できます。
項目 | 例 | 目的 |
---|---|---|
コンテンツ幅 | 960px / 1280px | グリッド構造を作りやすくする |
余白(margin/padding) | 8px / 16px / 24px / 32px | 統一感のあるリズムを保つ |
ボタンサイズ | 高さ48px、内側余白16px | 視認性と操作性を両立 |
セクション間の余白 | 64px / 96px | 視覚的な“呼吸”をつくる |
グリッド間のガター | 24px / 32px | レイアウトの秩序を保つ |
こうした“数値の一貫性”は、見た目の美しさだけでなく、
コーディングや運用フェーズの整合性の維持にもつながります。
メリット:ルールがもたらす3つの恩恵
① デザイン全体が自然に整う
8の倍数で余白を統一するだけで、サイト全体に秩序が生まれます。
不思議なことに、同じ構成でも「バラバラのpx指定」と「8の倍数指定」では印象が全く違う。
人の視覚は小さなズレに敏感なので、規則性のある数値はその違和感を排除してくれるのです。
② コーディングが速く、後からも直しやすい
CSSで $space-1: 8px;
といった変数を定義しておけば、
デザイン変更時も数値を一か所変えるだけで済みます。
運用や保守が圧倒的にラクになるのは大きな強みです。
③ チーム全体の判断スピードが上がる
「ここは16pxに」「次は32pxに」と即決できるので、会話の効率が上がります。
ルールを共有しておくことで、“迷いの時間”が減る=制作が進むんですね。
あえて崩す“自由”も必要
もちろん、8の倍数ルールは万能ではありません。
- デザインによっては、8pxでは少し狭い・広いという場面も出てきます。
- グラフィック寄りのLPやアート性重視のサイトでは、むしろ意図的なズレが効果的な場合も。
- さらに、フォントサイズや行間などはタイポグラフィの法則を優先することもあります。
つまり、「8の倍数」は“手段”であって“目的”ではありません。
大切なのは、整うためのルールを理解した上で、崩す理由を持つことです。
実務での活かし方
スタイルガイドに数値ルールを入れる
チームで統一するなら、スタイルガイドやFigmaのデザインシステムに「余白・高さ・間隔は8の倍数を基本とする」と明記しておきましょう。
これだけで、後続メンバーの迷いが減ります。
グリッドを8pxに設定する
FigmaやXDでは“8pxグリッド”を設定できます。
これを基準に配置していけば、自然と整ったレイアウトが作れます。
コーディング時の変数化
SassやCSS変数で以下のように定義しておくのもおすすめです。
$space-1: 8px;
$space-2: 16px;
$space-3: 24px;
$space-4: 32px;
この“基準の柱”を立てておくことで、
将来の修正・追加・リニューアルの際も一貫性を保てます。
SEO・UXの観点から見た「8の倍数ルール」
少し意外に思うかもしれませんが、このルールはSEOやUXにも良い影響を与えます。
- 余白のリズムが整うことで、コンテンツが読みやすくなり、滞在時間が伸びる
- ボタンやフォームの配置が統一され、ユーザーが迷わない
- コードがシンプル化され、ページ表示速度が上がる
- ブランドイメージの一貫性が向上し、検索評価にもプラスに働く
つまり、「8の倍数ルール」はデザインだけでなく、サイト全体の使いやすさと評価の底上げにつながる仕組みなんです。
デザインは“感覚”と“構造”のバランスでできている
最終的に大切なのは、「ルールを知った上で、どう活かすか」。
8の倍数ルールは、“感覚”と“構造”のちょうど真ん中にある考え方です。
「感覚で整える」のではなく、「数値で再現できる整い」を生む。
これが、プロのデザイナーが“再現性のある美しさ”を作れる理由でもあります。
デザインは、センスだけでなく仕組みでできている。
その入口として、この8の倍数ルールをぜひ取り入れてみてください。
まとめ:美しさは、論理から生まれる
8の倍数ルールは「感覚を裏付ける数学的デザイン思考」とも言えます。
秩序ある数値設計が、無意識レベルで心地よいデザインを作る。
それがこのルールの本質です。
はじめは意識的に、そのうち自然に「8のリズム」でレイアウトできるようになるはずです。
整っているのに、息苦しくない。
そんな“美しい秩序”を、あなたのデザインにも取り入れてみませんか?

【補足記事】8の倍数ルール 実践チェックリスト
──明日からすぐ使える、デザインの整え方ガイド
「8の倍数ルール、理屈は分かったけど実際にどう適用すればいいの?」
そんな方のために、デザイン現場でそのまま使えるチェックリストをまとめました。
Figma・XD・Photoshop・コーディング、どのツールでも活用できる内容です。
基本ルール編
チェック項目 | 確認内容 | 備考 |
---|---|---|
8pxグリッドを設定している | FigmaやXDで8pxグリッドを有効化しているか | ガイドラインとして視覚的に確認 |
主要な余白が8の倍数 | margin / padding を8, 16, 24, 32pxなどで設定 | 部分的に4pxを併用するのはOK |
コンテンツ幅が8の倍数 | 960pxや1280pxなどで統一 | セクション間のズレ防止 |
セクションの上下余白を8の倍数で統一 | 64px、96pxなど | ページ全体の“呼吸感”を合わせる |
行間・文字間のリズムを確認 | デザイン的にバランスが取れているか | タイポグラフィは例外あり |
デザイン設計編
チェック項目 | 確認内容 | 備考 |
---|---|---|
ボタン・カードなどUI要素の高さが8の倍数 | 高さ48px・64pxなど | タップ領域の最適化にも効果的 |
アイコンサイズを統一 | 24px / 32px / 48pxなど | 異なる解像度でも見た目を揃えやすい |
グリッドやカラム間隔も8の倍数 | カラム幅やガーター幅を24px・32pxなどに | レスポンシブ対応時の崩れを防ぐ |
コンポーネント同士の距離がリズムを保っている | 要素同士の「間」を統一 | 8px刻みで美しく並ぶ |
コーディング編(CSS/Sass用)
チェック項目 | 確認内容 | 備考 |
---|---|---|
余白変数を定義している | $space-1: 8px; $space-2: 16px; など | 一貫性のあるCSS管理が可能 |
余白を直接指定せず、変数で呼び出す | margin: $space-2; のように指定 | 設計ルールが維持されやすい |
メディアクエリでも8の倍数を維持 | 例:@media (max-width: 768px) | ブレークポイントも8の倍数に近い値に |
ユーティリティクラスを8刻みで管理 | .mt-8 , .pt-16 など | Tailwind風の運用もおすすめ |
運用・チーム共有編
チェック項目 | 確認内容 | 備考 |
---|---|---|
スタイルガイドに「8の倍数ルール」を明記 | チーム全員が同じ基準で判断できる | FigmaのLibraryやNotionで共有 |
新メンバーへの引き継ぎにルールを添付 | ルールの背景を説明できる状態か | “理由”を理解してもらうと守られやすい |
修正依頼時にも8の倍数で調整している | 「8px広げる」など数値で伝える | 言語化しやすく、ブレが少ない |
サイト更新時に再チェック | 新セクションやLP追加時も確認 | 長期運用でデザイン品質を維持 |
ワンポイントメモ
- 完璧を求めすぎない
→ すべてを8の倍数にしようとすると、デザインが窮屈になります。
必要に応じて4px単位の“緩衝余白”を使うと自然です。 - 視覚的に美しいかを最終基準に
→ 数値だけに囚われず、「見たときに整っているか?」を優先。
人の目の心地よさが最終判断軸です。 - 例外を“ルール化”する
→ 「このパターンでは4pxも許容」と明記しておくと、後で混乱しません。
チェック後のアクション提案
チェックリストを通して「バラバラな数値」が多かった場合、
まずは次の3ステップで改善していくのがおすすめです。
- 8pxグリッドを設置(デザインの視覚ガイドを整える)
- 余白ルールを変数化(コーディングで再利用しやすく)
- 共通パーツを洗い出す(UI単位で統一)
この3つを意識するだけでも、デザインの“統一感”はぐっと上がります。