クラウドの設計って、専門用語も多くて「どこから手をつければいいの?」と不安になりますよね。
特に AWS はサービス数が多く、初学者ほど迷いやすい分野です。
そんなとき、道しるべになるのが Well-Architected Framework です。
これは AWS が長年の知見からまとめ上げた、「クラウドで失敗しないための設計思想のセット」。
安全で、壊れにくくて、速くて、ムダのないシステムを作るための“正解ルート” といってもいい存在です。
ざっくり言えば、AWS が“こう作ると安心だよ”と教えてくれる設計マニュアルです。
難しそうに見えますが、考え方そのものはとてもシンプル。
クラウドの強みを活かし、ミスを減らし、成長し続けられる仕組みを作るだけです。
この記事では、一般的な設計原則 と 6つの柱 を、直感的に理解できるようにやさしく解説します。
初めて AWS を学ぶ方でも、「なるほど、こういうことだったのか」とすっきり整理できるはずです。
では、一緒にクラウド設計の“土台”を固めていきましょう。
まずは「一般的な設計原則」、続いて「6つの柱」という順で理解するとスッキリ頭に入ります。
目次
① 一般的な設計原則(クラウド時代の“当たり前ルール”)
クラウドは“必要な分だけ借りて使う”スタイル。
この特徴を活かすための基本思想が次の7つです。
1. CAPEX ではなく OPEX を活用する(初期費用を前提にしない)
クラウドは買うのではなく“借りる”。
そのため 使った分だけ払う運用(OPEX) が基本。
必要なときに必要なリソースを素早く入手できるので、需要の増減に応じて段階的にスケールアップ/スケールダウンする前提で設計を行います。
覚え方
「AWSは電気料金。使った分だけ」
2. 需要の変化にあわせてリソースを増減させる(スケーラビリティ)
アクセスが増えたら自動でサーバーを増やし、
減れば減らす仕組みを作る。
例:
セール時だけレジを増やすスーパー。
覚え方
「混んだらレジ増やす、空いたら減らす」
3. すべてを自動化する(Automation)
バックアップ、監視、スケーリングなど、手作業を極力なくすことでミスを減らす。
システムの作成や複製作業を自動化することで、同じ環境を手軽に作成できるようになります。
同じ環境を容易に作成できるので、新機能の適用や動作確認といった実験的な作業を安全に何
度でも実行できます。
また、自動化設定の変更点を管理することで、以前の環境を簡単に再現できます。
覚え方
「手でやらない → 事故が減る」
4. 本番と同じ規模でテストできる環境を簡単に作る
クラウドは、本番と同じ規模の環境を“使う時だけ”複製できる。
だからテストがしやすい。
AWSでは本番相当のテスト環境を一時的に作成し、テスト完了後に環境を破棄できるため、容易に本番環境をシミュレートできます。
覚え方
「本番そっくりを一瞬で用意」
5. 変更を小さく小さく分けて行う(小さなリリース)
大きな変更ほど失敗したときの被害が大きい。
クラウドではこまめに安全に更新する。
覚え方
「ちょっとずつ動かすと壊れにくい」
6. バージョン管理された変更管理(Infrastructure as Code)
サーバー構成やネットワーク設定をコード化して管理する。
再現性も高く、改善もしやすい。
覚え方
「設定もプログラム。だから何度でも同じ環境を作れる」
7. 障害演習(ゲームデー)で本番に強くなる
「もしサーバーが落ちたら?」
といった練習を事前に行い、復旧手順を確認しておく。
本番環境のイベントをシミュレート(ゲームデー)することで、改善箇所の発見やイベントに対応す
る運用者の経験を積むことができます。
覚え方
「練習していたら、本番で焦らない」
まとめ(一般原則)
“自動化・スケール・再現性・小さな変更・データと実験で改善”
これがクラウドの基本姿勢。
② 6つの柱(AWS設計で“絶対に外せない6分野”)
一般的な設計原則を土台として、
AWSは「6つの柱」に沿って考えると失敗しないよ、と教えてくれています。
以下、ひとつずつ 軽く、かつ覚えやすく 説明します。
1. 信頼性(Reliability)
壊れても自動で立ち直る仕組みを作ること。
クラウドは壊れない前提ではなく、
“壊れる前提で設計する”のが正解。
覚えるポイント:
- 障害を検知して自動で修復(セルフヒーリング)
- 複数の場所(AZ)にコピーしておく
- 復旧手順をテストしておく
- スケールアウトで負荷に強くする
覚え方:
「壊れても勝手に治るシステム」
2. セキュリティ(Security)
「誰が、何に、どれだけ触れるか」を明確にし、データを守る設計。
AWSはログと権限管理が命。
覚えるポイント:
- IAM で最小権限を実現
- ログで「何が起きたか」を必ず記録
- データは暗号化しておく(保存時・通信時)
- セキュリティは“人間ではなく仕組みで”維持する
覚え方:
「鍵 × 監視 × 暗号化」
3. パフォーマンス効率(Performance Efficiency)
必要なときに必要なだけ性能を出す仕組みを作る。
クラウドは“強いマシンを買う”のではなく、
“性能を必要な瞬間だけ借りる”のが合理的。
覚えるポイント:
- オートスケーリングで性能維持
- 正しい種類のサービスを選ぶ(例:DynamoDB or RDS)
- 新技術を柔軟に採用
- メトリクスで継続的に改善
覚え方:
「混んだら増やす、空いたら減らす」
4. コスト最適化(Cost Optimization)
“必要なところにだけお金を使う”設計。
クラウドは便利だが、適当に使うと高額になる。
コストを把握し、不要なリソースを排除することが重要。
覚えるポイント:
- 使っていないものは削除する
- データ転送はコストの発生源なので注意
- 適切な課金モデル(オンデマンド・リザーブド)を選ぶ
- 自動化でムダな工程を減らす
覚え方:
「無駄な電気は消す」
5. 運用上の優秀性(Operational Excellence)
運用のやりやすさを最初から設計し、改善を続けられる状態を作る。
IT運用は「作ったら終わり」ではなく、
改善と監視の連続。
覚えるポイント:
- 設定はコード化(IaC)
- 変更は小さく実施
- 障害対応の手順を改善し続ける
- メトリクスを可視化して運用判断する
覚え方:
「見える化 × 自動化 × 小さな改善」
6. 持続可能性(Sustainability)
環境負荷を減らし、効率よくエネルギーを使う設計。
新しい柱で、クラウド時代の“エコ設計”がテーマ。
覚えるポイント:
- 過剰スペックを避ける
- データ量や処理を最適化する
- 省電力サービス(Gravitonなど)も検討
- リソース使用率を継続的に分析
覚え方:
「ムダを削り、軽く回す」

引用元:AWS Well-Architected フレームワーク
【ユーザが責任をもって管理すべきもの】
・ユーザーが保存したデータの暗号化
・ユーザーが作成したAWSアカウントの管理
・データベース監査ログの収集および監視
・ネットワークトラフィックの監視
・アプリケーションログの収集および監視
・AWSサービスを利用するにあたって作成した認証情報
・AWSサービスへのアクセス権限
・AWSサービス上のユーザーデータやログ
・ゲストOSのパッチ適用、セキュリティ対策
【AWSが責任を持って管理すべきもの】
・ネットワーク機器のファームウェアのバージョンアップ
・データセンターの入退室管理
・不要になった物理ディスクの破棄
・AWSのサービスが稼働するハードウェアのセキュリティ対策
・AWSのサービスが稼働するデータセンターのセキュリティ対策
・ハイパーバイザー(ホストOS)のパッチ適用、セキュリティ対策
最後に
Well-Architected Framework は、AWS を使った設計の「教科書」のような存在です。
- 一般的な設計原則 では、クラウドならではの考え方
- 6つの柱 では、AWSで欠かせない6つの重点領域
これらをセットで理解するだけで、クラウド設計の視点が驚くほどクリアになります。
覚えておきたいのはただひとつ。
クラウドは“変化に強く、壊れても復活できて、ムダを減らし続ける”設計を目指す。
これさえ頭に入っていれば、AWS の学習も、実践もぐっと楽になります。
あなたのクラウド設計が、もっと安全で、もっと効率的で、もっと成長し続けられるものになりますように。
そして、AWS の知識を使って現場での自信や活躍の幅が大きく広がることを願っています。


