システム戦略は、企業がITをどう活用して経営や業務を最適化していくかを考える領域。
初学者が混乱しやすい単語も多いですが、ポイントを押さえればスッキリ理解できます。
ここでは、試験対策として押さえるべきキーワードと手法を、丁寧に解説していきます。
ちなみに、試験では正しいスペルを記述することはないので、試験だけならあいまいにでも覚えていればOKです。(これは基本情報技術者試験も同じです。)
目次
情報システム戦略とは(全体最適と部分最適)
情報システム戦略とは、会社全体の目標(全体最適) に沿ってシステムを活用していく計画のことです。
一方で、部門ごとの効率を高める 部分最適 ばかりに目を向けると、全体のバランスを崩すことがあります。
ITパスポート試験では「全体最適」と「部分最適」の違いを理解することが大切です。
情報システム戦略の手法
EA(エンタープライズアーキテクチャ)
EA(Enterprise Architecture/エンタープライズアーキテクチャ) は、企業全体を俯瞰してシステムや業務を整理する考え方です。
部分的な最適化ではなく、全体最適 を意識することが特徴です。
EAでは 4つの視点 から分析を行います。
- ビジネス:経営戦略や業務プロセスをどう整理するか
- データ:どんなデータを扱い、どのように管理・共有するか
- アプリケーション:どのシステムがどの業務を支えているか
- テクノロジ:サーバー、ネットワーク、クラウドなど技術基盤の整備
このように整理することで「現在の姿」と「将来あるべき姿」の差を明確にし、その差を埋める方法を考えるのが ギャップ分析 です。
例えば、「今は紙の帳票で処理しているけど、将来はクラウドで一元管理したい」といったケースが典型例。
ギャップを把握することで、システム導入や改善の優先順位が明確になります。

👉 試験でのポイント
EAは「全体最適を目指す考え方」「4つの視点で整理する」「ギャップ分析とセットで使われる」という3点を覚えておくと安心です。
| 項目 | 内容 | 試験でのポイント |
|---|---|---|
| 定義 | 企業全体を俯瞰して業務やシステムを整理する手法 | 全体最適を重視する考え方 |
| 視点 | ビジネス(業務・組織)、データ(扱う情報)、アプリケーション(業務システム)、テクノロジ(技術基盤) | 4つの視点を押さえる |
| 手法 | ギャップ分析(現在と将来の差を明確にし、埋める方法を考える) | EAとセットでよく出題される |
エンタープライズサーチ
企業の中には、ファイルサーバー、メール、グループウェア、クラウドストレージなど様々な場所に情報が散在しています。
エンタープライズサーチ は、こうした情報を横断的に検索できる仕組みです。
たとえば、営業担当が過去の契約書や提案資料を探すとき、通常ならフォルダを一つひとつ開いて確認する必要があります。しかしエンタープライズサーチを導入すれば、Google検索のようにキーワードを入力するだけで横断検索が可能になります。
これにより、業務効率の向上・知識の共有促進・属人化の防止 などの効果が期待できます。
特に大企業や情報量の多い組織では欠かせない仕組みです。
👉 試験でのポイント
「エンタープライズサーチ=社内専用の検索エンジン」とイメージできると覚えやすいです。
| 項目 | 内容 | 試験でのポイント |
|---|---|---|
| 定義 | 社内の膨大な情報を横断的に検索できる仕組み | 社内専用の検索エンジン とイメージすると覚えやすい |
| 効果 | 業務効率向上、知識共有の促進、属人化防止 | 大企業・情報量の多い組織で有効 |
SoRとSoEの違い
ITパスポート試験では、システムの役割を理解するために SoR と SoE の区別がよく問われます。
- SoR(System of Record)
基幹系システムを指します。会計、販売管理、人事管理など、正確性・整合性を最も重視する領域です。間違いが許されないため、安定性が最優先になります。 - SoE(System of Engagement)
顧客や社員との「つながり」を重視するシステムです。SNS連携、Webアプリ、チャットツールなどが代表例。スピード感や柔軟性が求められ、ユーザー体験の向上がゴールになります。
この2つは役割が対照的で、よく「守りのIT(SoR)」と「攻めのIT(SoE)」と表現されます。
企業はこの両方をバランスよく活用して、効率性と競争力を両立させるのです。
👉 試験でのポイント
「SoR=基幹系で正確性重視」「SoE=顧客接点で柔軟性重視」と整理して覚えると得点につながります。
| 分類 | 特徴 | 例 | 試験でのポイント |
|---|---|---|---|
| SoR (System of Record) | 正確性・安定性を重視する基幹系システム | 会計、人事、販売管理 | 守りのIT:正確性重視 |
| SoE (System of Engagement) | 顧客や社員とのつながりを重視 | SNS連携、Webアプリ、チャットツール | 攻めのIT:柔軟性・スピード重視 |
業務プロセスの分析手法
1. 業務プロセスの分析とは?
システム戦略を考えるうえで大切なのは、いきなり新しい仕組みを導入することではなく、まず「自社の現在の状態」を正しく把握することです。
業務プロセスの分析は、次のような目的で行われます。
- 業務の流れを整理し、無駄や非効率を発見する
- データやシステムのつながりを明確にする
- 改善すべきポイントを具体的にする
「見える化」することで、初めて適切な改善が可能になります。
2. データの流れを表す「DFD」
DFD(Data Flow Diagram/データフローダイアグラム) は、データの流れを図式化する手法です。
四角形・矢印・丸などの図形を使って、どこからデータが入り、どこへ流れていくのかを表現します。

👉 試験の狙い
「DFD=データの流れを表す図」というワンフレーズで覚えましょう。
3. アクティビティ図
アクティビティ図 は、業務の流れや処理の手順を図で表す手法です。特に、並行して進む業務を表現できるのが特徴です。
例えば、商品の受注後に「請求書の発行」と「在庫の引き当て」が同時に進むといったケースを表現できます。

👉 試験の狙い
「並行処理を表す=アクティビティ図」と関連付けて覚えると良いです。
4. 業務分析に関する用語
- BPMN(Business Process Modeling Notation)
業務プロセスを標準的な記法で表すための図式。世界的に広く利用されています。 - UML(Unified Modeling Language)
システムの設計や分析に使われる共通言語。アクティビティ図もUMLの一部です。 - ワークフロー
業務の手順や承認の流れを定義したもの。申請書の「起案→承認→処理」などが典型例。 - ワークフローシステム
ワークフローをシステム化した仕組み。電子決裁システムや社内申請システムが代表例。
👉 試験の狙い
「BPMN=業務プロセスを標準記法で表す」「ワークフロー=承認・処理の流れ」という言葉の対応を押さえましょう。
| 手法・用語 | 内容 | 特徴・試験でのポイント |
|---|---|---|
| 業務プロセス分析 | 自社の業務の流れを整理・可視化する | 改善の第一歩は「現状把握」 |
| DFD(データフローダイアグラム) | データの流れを図示する手法 | 「データの流れを表す図」と覚える |
| アクティビティ図 | 業務や処理の流れを表現するUML図 | 並行処理を表す のが特徴 |
| BPMN | 業務プロセスを標準記法で表現 | 世界的に使われる記法 |
| UML | システム設計に使う統一モデリング言語 | アクティビティ図も含まれる |
| ワークフロー | 業務の承認や処理の流れ | 「起案→承認→処理」など |
| ワークフローシステム | ワークフローをシステム化した仕組み | 電子決裁・申請システムが典型例 |
顧客の問題を解決する「ソリューションビジネス」
従来は「商品を売る」ことがビジネスの中心でした。しかし現在は、顧客の課題を理解し、最適なシステムやサービスを組み合わせて 「問題解決を提供する」=ソリューションビジネス へと進化しています。
例えば「サーバー管理コストが高い」という悩みを持つ企業に対しては、単にサーバーを販売するのではなく、クラウド利用やアウトソーシング を提案することで、コスト削減・効率化・柔軟性の向上を同時に実現できます。
👉 試験でのポイント
「ソリューション=解決策」であることを押さえると理解がスムーズです。
サーバー管理コストを改善するビジネス
ハウジングサービス
自社で購入したサーバーを データセンターに設置してもらうサービス。
電源・空調・セキュリティをデータセンターに任せられるため、社内でサーバールームを維持する必要がなくなります。
ホスティングサービス
事業者が用意したサーバーを 間借りするサービス。
自社でサーバーを購入する必要がないため、初期コストを大幅に削減できます。
👉 違いのイメージ
- ハウジング=自分のマシンを「預ける」
- ホスティング=事業者のマシンを「借りる」

クラウドコンピューティングとオンプレミス
オンプレミス
自社がサーバーを所有・運用する形態。
セキュリティやカスタマイズ性に優れる一方、導入や維持に高コストがかかります。
クラウド
インターネット経由で必要なリソースを利用する形態。
必要な時に必要な分だけ使えるため、柔軟でスピーディ。
クラウドの分類(サービスモデル)

| 区分 | 提供されるもの | 例 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| IaaS(Infrastructure as a Service) | 仮想サーバー・ストレージなどの基盤 | AWS EC2、Azure VM | 自由度が高いが、設定・運用も必要 |
| PaaS(Platform as a Service) | 開発環境やミドルウェア | Google App Engine | アプリ開発に集中できる |
| SaaS(Software as a Service) | アプリケーションそのもの | Gmail、Slack | すぐに使える完成品 |
| DaaS(Desktop as a Service) | 仮想デスクトップ環境 | Amazon WorkSpaces | どこからでも同じデスクトップ環境に接続可能 |
👉 試験でのポイント
「IaaS=基盤」「PaaS=開発環境」「SaaS=アプリ」「DaaS=デスクトップ環境」と短いキーワードで押さえましょう。
業務を外部委託する方法
SI(System Integration)
システムの設計・開発・運用をまとめて請け負うビジネス。
これを行う企業を SIer(エスアイヤー) と呼びます。
顧客の要望を聞き取り、最適なシステムを構築するのが役割です。
アウトソーシング
システム開発や運用・保守などを 外部に委託 すること。
人件費や運用コストを削減できる反面、委託先の選定や情報セキュリティ対策が重要になります。
👉 試験でのポイント
「SI=システムを作る」「アウトソーシング=業務を任せる」と整理しておくと混乱しません。
| 分類 | 内容 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| ハウジングサービス | 自社サーバーをデータセンターに預ける | セキュリティ・運用負荷軽減 | サーバー購入は必要 |
| ホスティングサービス | 事業者のサーバーを借りる | 初期コスト削減 | カスタマイズ性が低い |
| オンプレミス | 自社でサーバー所有 | 高い自由度・セキュリティ | 高コスト・保守が必要 |
| クラウド(IaaS/PaaS/SaaS/DaaS) | 必要なリソースをオンラインで利用 | 柔軟性・低コスト・拡張性 | ネット依存・ベンダーロックイン |
| SI(System Integration) | システム設計・開発をまとめて委託 | 専門家に任せられる | 費用が高額になることも |
| アウトソーシング | システムや業務の外部委託 | コスト削減・効率化 | 情報漏洩リスク |
💡 学習アドバイス
- ハウジング=預ける、ホスティング=借りる とイメージすると忘れにくいです。
- クラウド分類は I・P・S・Dの頭文字 を素早く言えるようにしておくと試験で有利。
- SIとアウトソーシングは似ていますが「作る vs 任せる」で切り分けましょう。
システム戦略は「商品を売る」のではなく「課題を解決する」方向へ進んでいます。
システム活用の促進
せっかく導入したシステムも、社員や利用者が活用しなければ宝の持ち腐れになってしまいます。
そのため、システム戦略では 「利用を促進する仕組み」 も重要なテーマとして扱われます。
ここでは ITリテラシー/デジタルディバイド/ゲーミフィケーション の3つを軸に整理していきましょう。
1. ITリテラシー
ITリテラシー とは、ITを理解し活用する能力のことです。
単にパソコンやスマホを使えるだけでなく、情報を正しく扱い、効率よく業務に生かす力を指します。
- 基本的スキル:メールのマナー、クラウド利用、文書作成、セキュリティ意識
- 企業での重要性:社員のITリテラシーが低いと、システムが導入されても業務効率化につながらない
👉 試験の狙い
「システム活用の前提は利用者のITリテラシー向上」と押さえておきましょう。
2. デジタルディバイド
デジタルディバイド(情報格差) とは、ITを使える人と使えない人の間に生まれる格差を指します。
- 例:高齢者と若者のスマホ利用格差、都市部と地方のネット環境格差
- 問題点:サービスを利用できる人とできない人が分かれてしまう
- 解決策:ICT教育の普及、地域格差の改善、誰でも使いやすいUI/UX設計
👉 試験の狙い
「デジタルディバイド=情報格差」とシンプルに覚えるのがポイント。
3. ゲーミフィケーション
ゲーミフィケーション とは、ゲームの要素(ポイント、ランキング、バッジなど)を取り入れて、利用者のモチベーションを高める仕組みです。
- 例:学習アプリでのポイント制、健康アプリでの歩数ランキング
- 企業活用:社員研修の受講率を上げる、顧客にサービスを継続利用してもらう
- 効果:楽しみながら使える → システム活用が自然に進む
👉 試験の狙い
「ゲーミフィケーション=ゲーム要素でモチベーション向上」と覚えると得点に直結します。
| 項目 | 定義 | 具体例 | ポイント |
|---|---|---|---|
| ITリテラシー | ITを理解・活用する能力 | メール・クラウド・セキュリティ意識 | システム活用の前提条件 |
| デジタルディバイド | IT利用の格差(情報格差) | 高齢者と若者のスマホ利用格差 | 「情報格差」と覚える |
| ゲーミフィケーション | ゲーム要素で利用を促進 | ポイント制学習アプリ、ランキング表示 | モチベーションを高める仕組み |
💡 学習アドバイス
実生活の例を結びつけるとイメージしやすく、試験本番でもすぐに思い出せます。
ITリテラシー=能力、デジタルディバイド=格差、ゲーミフィケーション=仕掛け と整理すると混乱しません。
まとめ
ITパスポート試験の「システム戦略」は、経営とITをどう結びつけるかを理解する分野です。
- 情報システム戦略 は「全体最適」がポイント
- 業務プロセス分析 → 改善 → ソリューションビジネス → 活用促進 という流れを意識する
- EA、DFD、BPR、クラウド、アウトソーシングなど、用語の理解が得点に直結
体系的に押さえることで、本試験での得点アップにつながります。
ITパスポート試験|ストラテジ系「システム戦略」まとめ表
| 大分類 | 項目 | 内容・具体例 | 試験のポイント |
|---|---|---|---|
| 情報システム戦略 | 情報システム戦略とは | 全体最適(会社全体の視点)と部分最適(部門視点)の違い | 全体最適が重要 |
| EA(エンタープライズアーキテクチャ) | 4つの視点(ビジネス/データ/アプリケーション/テクノロジ)+ギャップ分析 | 4つの視点+将来像との比較 | |
| エンタープライズサーチ | 社内に散らばった情報を横断検索できる仕組み | 社内専用検索エンジン と覚える | |
| SoRとSoE | SoR=基幹系(正確性重視)/SoE=顧客接点(柔軟性重視) | 守りのIT/攻めのIT | |
| 業務プロセスの分析手法 | 業務プロセス分析 | 現状を把握し「見える化」する | 改善の第一歩は「現状把握」 |
| DFD(データフローダイアグラム) | データの流れを図式化 | データの流れを表す図 | |
| アクティビティ図 | 並行処理を表現できるUML図 | 並行処理=アクティビティ図 | |
| BPMN | 業務プロセスを標準記法で表現 | 世界的に使われる記法 | |
| UML | 統一モデリング言語(アクティビティ図を含む) | システム設計の共通言語 | |
| ワークフロー/WFシステム | 承認や処理の流れ/それをシステム化したもの | 電子決裁や社内申請で利用 | |
| 業務プロセスの改善手法 | BPR | Business Process Re-engineering:抜本的改革 | 根本から作り直す |
| BPM | Business Process Management:継続的改善 | 改善を回し続ける | |
| RPA | 単純作業を自動化するソフトウェアロボット | 事務処理の効率化 | |
| BYOD | 個人所有の端末を業務利用 | セキュリティと柔軟性の両立 | |
| シェアリングエコノミー | 資産やサービスを共有して利用 | Airbnbやカーシェアなど | |
| ソリューションビジネス | ハウジングサービス | 自社サーバーをデータセンターに預ける | 「自分のを預ける」 |
| ホスティングサービス | 事業者のサーバーを借りる | 「相手のを借りる」 | |
| オンプレミス | 自社所有サーバー | 高い自由度だがコスト増 | |
| クラウドコンピューティング | ネット経由で利用。分類:IaaS/PaaS/SaaS/DaaS | 頭文字で暗記 | |
| SI(System Integration) | システムの設計・開発を一括受託。Sierが担当 | 作ることを任せる | |
| アウトソーシング | 業務や運用を外部に委託 | 運用を任せる | |
| システム活用の促進 | ITリテラシー | ITを理解・活用する能力 | システム活用の前提条件 |
| デジタルディバイド | IT利用の格差(世代・地域・スキル) | 情報格差 と覚える | |
| ゲーミフィケーション | ゲーム要素を活用し利用促進 | ポイント・ランキングでモチベUP |


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