Webデザイナーが“まず押さえる”法律チェックリスト|制作・運用で困らないために

4 min 30 views
webdesigner-law

はじめに:スキルだけじゃない、“守る力”もデザインの一部

デザイン、コーディング、UI/UX。
駆け出しのWebデザイナーが最初に学ぶのは、こうした「見た目を作る」「動きを付ける」スキルです。
ですが実際に仕事を始めると、もうひとつ欠かせないスキルがあることに気づきます。

それが「法律の基礎知識」。

クライアントから依頼を受けてWebサイトを作る以上、あなたのデザインは“法律に触れる可能性がある表現物”です。
特に近年は、個人情報の取り扱いや著作権、広告表現の規制などが強化され、知らずに違反してしまうケースも増えています。

この記事では、駆け出しWebデザイナーが最低限押さえておきたい法律と、現場での注意ポイントをわかりやすく整理して紹介します。
「知らなかった」では済まされないトラブルを防ぎ、信頼されるデザイナーを目指しましょう。

1. デザイナーが関わる「知的財産権」の基本

● 著作権 ― デザイン・写真・フォント・コードすべてが対象

Webデザインで扱う素材の多くは「著作物」です。
画像・写真・イラスト・フォント・文章・動画・ソースコード…これらには自動的に著作権が発生します。

よくある落とし穴

  • 「フリー素材だから自由に使える」と思い込み、実は「クレジット表記が必要」だった。
  • 「有料素材を購入したから改変してもOK」と思っていたが、改変禁止ライセンスだった。
  • デザインを納品した後、クライアントが「著作権ごとください」と言ってきた。

対策

  • 素材サイトごとに利用規約を必ず確認する。
  • 契約書で「著作権の帰属」を明確にする(納品後もデザイナーに残るケースもある)。
  • 他人の作品を参考にする際は、“模倣”と“インスピレーション”の違いを意識する。

● 意匠権 ― 「見た目のデザイン」も保護される

意匠権は、プロダクトやWebパーツの「形状・模様・色彩」など、外観デザインを保護する権利です。
Web業界ではあまり馴染みがありませんが、UIやアイコンデザインの世界では実際に争われた事例もあります。

  • 例:スマホアプリのUIデザインを模倣 → 意匠権侵害の可能性。
  • 例:オリジナルのローディングアニメーションが他社に真似された → 登録していれば保護対象に。

覚えておきたいこと


意匠権は「登録制」。

日常の制作では“意識して避ける”ことが主な防御になります。

● 商標権 ― サイト名・ロゴ・ブランド名の落とし穴

クライアントから「新しいブランドサイトを作って」と依頼されたとき、
そのブランド名がすでに他社に商標登録されていたらトラブルの原因になります。

2. Webサイト運用で意識すべき主要法律5つ

① 個人情報保護法

問い合わせフォーム、予約システム、会員登録機能など、個人情報を扱う場面では必須です。
Webデザイナーも、デザイン段階で「ユーザーが安心できる導線設計」を意識しましょう。

  • プライバシーポリシーへのリンクをフッターに設置
  • Cookie使用を示すバナーを表示
  • 問い合わせフォームには「目的(お問い合わせ対応のため)」を明示

チェックポイント

個人情報を扱うサイトは「SSL(https)」必須。フォーム送信が暗号化されていないと法的リスクがあります。

② 特定商取引法

ECサイトやサービス販売ページでは、事業者情報を明記する必要があります。
デザイナーが作成する「特定商取引法に基づく表記」ページは、法律上の必須項目です。

必要な項目例

  • 事業者名/責任者名
  • 住所・電話番号
  • 商品価格・送料
  • 支払い方法
  • 返品・キャンセル条件

デザイナー視点の注意


文字が小さすぎて読めない・色が背景と同化していると「不当表示」と見なされる場合があります。
法定表記は“読めるデザイン”を心がけましょう。

③ 特定電子メール法

メールマガジン配信フォームなどを設計する場合、「受信者の明確な同意」が必要です。

  • 「チェックボックスをデフォルトON」にするのはNG。
  • 登録時のメールで「配信停止リンク」を必ず設置する。

デザイナーの役割


UXの一環として「解除ボタンの見つけやすさ」も重要。
小さな文字で隠すようなUIは、法律違反につながります。

④ 景品表示法

広告・LP・キャンペーンバナーを作る際に注意が必要です。
過剰表現・誤解を招く表示は禁止されています。

NG例

  • 「世界No.1」「必ず痩せる」「永久無料」「限定なのに毎週開催」
  • 口コミ風の虚偽レビュー(ステマ規制の対象)

OKにするコツ

  • 「自社調べ」「調査期間」「対象数」を明記する。
  • 誇張よりも“信頼できる根拠”を添えることで、結果的にCVRも上がる。

⑤ 薬機法

美容・健康・サプリなどのLPをデザインする場合、「効能・効果を保証する表現」はNGです。

NGワード例

  • 「シミが完全に消える」
  • 「飲むだけで脂肪が燃える」
  • 「絶対に治る」

デザイナーができる工夫

  • 医療的表現ではなく「印象」や「使い心地」をビジュアルで伝える。
  • コピーライターと協力して“法に触れない訴求”を一緒に考える。

3. 制作現場でのトラブル事例と回避法

事例①:フリー素材の改変でクレーム

「無料素材だから大丈夫」と思い、イラストを色変更して使用 → 作者からクレーム。

回避策

  • 改変可否を明記している素材を選ぶ。
  • 著作権表記(クレジット)を削除しない。

事例②:クライアントが納品データを勝手に再利用

ロゴを他媒体に転用され、トラブルに。

回避策

  • 契約書に「再利用・改変・商用利用の範囲」を明記。
  • Adobe IllustratorやFigmaの元データを渡す場合は条件を添える。

事例③:キャンペーンバナーで「誤解を招く表示」

「先着100名限定」と書いてあるのに実際は制限なし。

回避策

  • クライアント確認前に「数字や期間は事実か」を必ず確認。
  • 不確定要素を含む表現(例:「最安」「人気No.1」)は避ける。

4. 法的リスクを防ぐためのチェックリスト

項目チェックポイント
素材利用商用利用可/改変可否/クレジット義務の有無を確認
契約書著作権・納品データ・再利用条件を明確に
フォーム設計SSL通信/目的明記/個人情報の取扱説明
表現効果保証NG/誇大広告NG/比較広告に注意
メール配信明確な同意取得/解除リンクを設置
法定表示特定商取引法の必須項目を明示/可読性を確保

ポイント


デザイナーも「法務の一端を担う」立場。

完成したデザインを提出する前に、この表をチェックしましょう。

5. デザイン×法律のバランスをとるコツ

  • “伝えたい”より“誤解されない”を優先。
    デザインの目的は「伝えること」ですが、誤解される表現は逆効果です。
  • UI/UXデザインも法的視点で。
    プライバシーポリシーや配信停止リンクの配置も“信頼性デザイン”の一部。
  • 法律を理解しているデザイナーは強い。
    クライアントからの信頼度が上がり、単価交渉にも有利になります。

6. 今後の法改正に備える視点

法律は毎年のようにアップデートされています。
Cookie規制、広告ステマ法、AI生成物の著作権問題など、Web業界の動きは特に速いです。

  • Cookie同意管理ツール(Consent Manager)の導入提案ができると◎
  • AI生成画像の著作権トラブルにも注意(素材として販売・公開する際は利用規約を確認)
  • データ保護やサイバーセキュリティへの理解も、デザイン提案の質を高めます。

まとめ:法律を味方につけるデザイナーになろう

Webデザインの仕事は、アートでもあり、ビジネスでもあります。
そのどちらも成立させるために、「法律の理解」は欠かせません。

最初は難しそうに見えても、チェックリスト化すれば習慣化できます。
今日からできる3つのステップを紹介します。

  1. 今使っている素材サイトの利用規約を確認する
  2. 契約書に著作権の項目があるかをチェックする
  3. クライアント案件で“法定表記”を意識してみる

「守りの意識」を持ったデザイナーこそ、長く信頼されるプロです。
あなたのデザインが、安心して世の中に届くように。

関連記事